パラスペックルから始める核内構造体研究

tetsu

はじめに

核内構造体の中には、arcRNAを足場として形成されるものがあります。

パラスペックルはその1つで、NEAT1_2という非コードRNAを足場として形成されます[1,2,3]。

arcRNAが1種類という意味で、パラスペックルは核内構造体の中でもシンプルな部類であると思います。

とはいえ、NEAT1_2に結合するRNA結合タンパク質(RNA-binding protein、または、RBP)は40種類以上あります。

そのなかでも代表的なものがNONOで、パラスペックルの形成には必須のものとなっています[4]。

パラスペックルは、タンパク質やRNAを取り込むスポンジとして働きます。

また、活性な遺伝子の近傍で観察されることが多いため、転写か転写と同時に起きるプロセスに何か役に立っているのだと考えられています。

しかし、これという機能がちゃんとわかっているわけではありません。

なーんだ、生命機能が分からないのか、と興味を失った方は、ちょっと考えてみてください。

私だったら、生命機能が既に発見されているものは、非常に重要な部分は分かっているので、大した発見が残ってなさそうに思えます。

生命機能が分かっていないと聞くと、そもそもそんなものないという可能性を含みつつも、まだ新しい発見の余地が残っているなと思います。

科学研究においては、知識として重要であることと、新しい発見のための奥行きがあることとは分けて考えた方がいいと思っています。

いくら過去に偉大な発見があったとしても、我々が研究するときに新しい発見が残っていなかったら研究誌がいがないですものね。

パラスペックルの特徴

NEAT1_2の転写量とパラスペックル

NEAT1_2の転写を止めると、30分ほどでパラスペックルが無くなってしまいます[2,3,5]。

NEAT1_2の転写を再開させると、NEAT1_2の転写サイト付近でパラスペックルが観察され始めます。

野生型では球形のパラスペックルが多いです。

一方、NEAT1_2の転写を増幅すると、球形だけでなく、円筒形のパラスペックルも観察されます[6]。

このことは、NEAT1_2の転写がパラスペックルの形成に重要な役割を果たすことを強く示唆しています。

パラスペックルのコア―シェル構造

核内構造体を含む細胞内凝集体は液液相分離で形成されると考えられていることを前の記事で紹介しました。

液液相分離で形成される凝集体は、無秩序な液体です。

それに対して、パラスペックルには、NEAT1_2の中央の領域がコアに位置し、両末端領域がシェルに位置するコア―シェル構造を形成することが観察されています[7]。

球形のパラスペックルは、大体同じくらいの大きさのものが複数観察されます。

相分離凝集体の特徴-マクロ相分離

パラスペックルは、液液相分離によって形成されるのでしょうか?

たとえば、液液相分離によって形成されるタンパク質の凝集体は、水とタンパク質が混ざった状態より分離した状態の方が安定であるために形成されます。

凝集体の表面では水とタンパク質が強制的に接してしまうため、凝集体の内部や水を主成分とする領域と比べて(自由)エネルギーが高くなっています[8]。

従って、凝集体の表面積が大きければ大きいほど、系は不安定です。

この余剰分のエネルギーを表面エネルギーと言います。

ちなみに、単位面積当たりの表面エネルギーは、表面張力と一致します。

相分離凝集体のダイナミクスは、表面エネルギーによって支配されます[8,9]。

体積が同じでしたら、表面積が最小になる形は球です。

熱によって表面が揺らぐことはありますが、基本的には相分離凝集体は球形になります。

また、ある時点で同じ組成を持った凝集体が複数あったとしても、時間がたつにつれて融合(coalescence)することによって、大きくなっていきます。

融合の他にも、小さい凝集体の分子が溶け出し、大きい凝集体に取り込まれるという粗大化(coarsening、または、Ostwald ripening)という成長過程もあります。

いずれにしても平衡状態では、1つの大きな(マクロな)凝集体になってしまいます。

このように、平衡状態で系がマクロな領域に分かれてしまうような相分離をマクロ相分離(macroscopic phase separation)と言います。

液液相分離はマクロ相分離の典型例です。

円筒形のパラスペックルや複数のパラスペックルの分散が観察されていることは、パラスペックルが相分離凝集体ではないことを示唆しています。

それでは、パラスペックルはどのようなメカニズムで形成されているのでしょうか。

CRISPR/Cas実験

現在では、CRISPR/Casによって、NEAT1_2の転写サイトをいじることができます。

中央領域を短くすると、小さなパラスペックルが形成されるようになります[4]。

両末端領域を短くすると、逆にパラスペックルが大きくなります[10]。

この場合には、パラスペックルは、相分離凝集体のようなランダムな液体になっています。

NEAT1_2の片方の末端領域を短くすると、短くした方の末端領域の一部、または、全部がコアに位置するようになります。

ブロック共重合体の自己組織化

ブロック共重合体

高分子は、繰り返し単位(モノマー、または、単量体)を連結して合成される高分子です。

ブロック共重合体は、高分子の一種で、複数の種類の高分子を結合して合成されます。

その中でも一番シンプルなものはABブロック共重合体で、Aモノマーを繰り返し単位とする高分子とBモノマーを繰り返し単位とする高分子が連結されたものです。

そのなかでも、Aモノマーが繰り返されている部分とBモノマーが繰り返されている部分を、それぞれ、Aブロック、Bブロックといいます。

ABブロック共重合体では、AブロックとBブロックがつながっているために、さまざまな構造を形成します。

高分子ミセル

たとえば、ABブロック共重合体のAブロックが親水性のモノマーからなるブロック、Bブロックが疎水性のモノマー―からなるブロックだとします。

このような両親媒性のブロック共重合体を水に溶かすことを考えます。

ブロック共重合体の濃度が非常に小さい時には、ブロック共重合体は水中でバラバラに溶けます。

一方、ブロック共重合体濃度が臨界ミセル濃度(Critical Micelle Concentration、または、CMC)以上になると、ミセルが形成され始めます。

相分離とは異なり、臨界ミセル濃度はあくまでも目安です。

バラバラに溶けているブロック共重合体の数とミセルを作っているブロック共重合体の数が同じくらいになるのがCMCです。

疎水基であるBブロックが水と接触しないよう集まることによってミセルが形成するわけです。

ミセルはコア―シェル構造を形成し、Bブロックがコアに位置し、Aブロックはシェルに位置します。

コアの内部にあるBモノマーの周りにはたくさんのBモノマーがありますが、コアの表面ではBモノマーが水と無理やり接触させられているので、表面エネルギーが働きます。

そのため、小さなミセルは球形となり、ある程度まで大きくなります。

Aモノマーは親水基ですので、他のAモノマーよりもむしろ水と接触することで安定化します。

つまり、Aブロックの間には、実効的な反発力が働くのです。

ミセルを構成するブロック共重合体の数が増えると、シェル部のAブロックが密集してきますので、Aブロック間の反発力により不安定化します[11-13]。

同時に、コアの半径も大きくなるわけですが、コアはBモノマーで充填しているので、半径が大きくなるとその分だけBブロックが伸びます。

高分子は伸びると不安定化するという性質を持ちます。

この性質をエントロピー弾性というのですが、それについては次節で述べます。

ミセルの成長を進める働きがある表面エネルギーと、ミセルの成長を止める働きがあるAブロック―Aブロック相互作用とBブロックのエントロピー弾性が釣り合うような大きさのときに、ミセルが安定になります[11-13]。

ミセルには安定な大きさがあることが、相分離凝集体との相違点の1つです。

また、ミセルが大きくなると、球形よりも円筒形や平面(二重膜)の方が安定になることがあります。

従って、AブロックとBブロックの比や共重合体の濃度によっては、円筒形のミセルが形成されることがあります[11-13]。

ここまでお話ししたら、パラスペックルの性質は、高分子ミセルの性質と非常に似通っていることに気づくでしょう。

エントロピー弾性

伸びると不安定化するというのは高分子の性質です。

高分子は、取りうる形の場合の数が大きいほど安定になります。

場合の数が大きければ安定というのは、エントロピー増大の法則ですね。

高分子がピンと伸びた形状は1つしかありません。

両末端が近くにあればあるほど、取りうる高分子の形が多くなり、安定化します。

定量的に示すと、高分子はバネのようにふるまいます。

このことをエントロピー弾性と言います。

参考:ブロック共重合体のミクロ相分離

ミセルはブロック共重合体の希薄溶液で形成される構造です。

ブロック共重合体の研究では、よく溶融体が使われるので、少しだけ話をさせていただきます。

ほぼ完全なる脱線ですので、パラスペックルのみに興味がある方はこの節を飛ばしてもらって構いません。

ブロック共重合体ではAブロックとBブロックがつながっていますが、つながっていない高分子Aと高分子Bの溶融体では、高分子Aを主成分とする領域と高分子Bを主成分とする領域にマクロ相分離します。

一方で、AブロックとBブロックがつながっているだけで、ブロック共重合体の溶融体は、様々なパターンを形成します[14]。

たとえば、Aブロックを主な要素とする複数の球形領域がBブロックを主に含む大きな領域のなかで規則正しく並んでいる構造などです。

これらの領域はミクロ相と呼ばれ、ブロック共重合体がミクロ相を形成する(系がミクロ相に分かれる)現象をミクロ相分離(microphase separation)といいます。

マクロ相分離とは異なり、ミクロ相はある大きさ以上には成長しません。

また、ミクロ相は球形とは限らず、円筒形になったり、ラメラ(層状)であったりします。

理論的には、比較的高温での解析(weak segregation limit)はLeiblerが[15]、低温での解析(strong segregation limit)はSemenovが[16,17]行いました。

前節で述べたミセルから水をどんどん吸い取っていて、ミセルが規則的に並んだ構造になったようなものだと思ってもらってもよろしいかと思います。

実際Semenovはそのように考えていたようです。

太田隆夫先生と川崎恭治先生によって、マクロ相分離の原因であった近距離の引力相互作用と、長距離の斥力相互作用の競合の結果であるという示唆が得られました[18]。

高分子溶融体などの多体系は、統計力学を使ったとしても厳密に計算するのは困難です。

平均場理論(Self-consistent field theory、または、SCFT)は、相分離などの協調現象をかなり正確に予言できる強力な近似です。

平均場理論をミクロ相分離に拡張して、両極限での解析を含む全体像が得られました[19,20]。

コアに安定な大きさがあることをミクロ相分離の本質ととらえて、ミセル化もミクロ相分離に含める場合もあります。

しかし、一般的には、ミクロ相分離というと、コアが規則的に並ぶ秩序も含めた概念と考えることが多いでしょう。

パラスペックルは高分子ミセルと考えることができる

NEAT1_2 RNP複合体はブロック共重合体としてふるまう

これまでの議論で、パラスペックルが高分子ミセルと似た性質を持っていることが分かるかと思います。

コア―シェル構造を形成するだけでなく、安定な大きさがあり、球形だけでなく円筒形を形成できるところまで似通っています。

パラスペックルの場合には、NEAT1_2の両末端領域がシェルに位置し、中央領域がコアに位置します。

したがって、NEAT1_2 RNP複合体は、(ABブロック共重合体ではなく)ABCブロック共重合体と考えるべきです。

AブロックとCブロックが親水性を持ち、Bブロックが疎水性を持つ場合には、中央のBブロックがコアに位置し、末端領域のAブロックとCブロックがシェルに位置するような高分子ミセルが形成されることは想像に難くないと思います。

AブロックとCブロックが違うモノマーからできているように書いていますが、同一なものである可能性(ABAブロック共重合体である可能性)も含んでいます。

RNP複合体の相互作用は、RNAに結合しているRBP(RNA結合タンパク質)によります[10,21]。

NEAT1_2の中央の領域には、アセンブリをする役割を持つNONOが結合します。

一方、両末端領域には異なるタンパク質が結合するため、RNP複合体としてはABCブロック共重合体としてふるまうためです。

RNAのどの部分にどのRBPが結合するかということは、配列によって決まっていると考えられます。

パラスペックルは転写によって形成される

高分子ミセルの形成には、CMC以上の濃度のブロック共重合体が必要であることを紹介しました。

この考え方は、ブロック共重合体が解けている平衡状態の溶液についてのものです。

この状態でミセルが形成されるためには、熱拡散しているブロック共重合体が集めなければなりません。

そのためにブロック共重合体の濃度を高くする必要があるのですね。

一方、NEAT1_2は、RNAですので、転写サイトでRNAポリメラーゼによって合成されています。

真核生物の転写は、複数のRNAポリメラーゼが同時にRNAを合成するON状態とほとんどRNA合成が起きないOFF状態の間を遷移しながら起こります(転写バースト)。

合成途中のNEAT1_2には、合成の終了をまたずにどんどんRBPが結合していきます。

これらのNEAT1_2は、RNAポリメラーゼによって転写サイトに束縛されているので、濃度が高くなくてもすでに近くにあります[21]。

従って、合成されながらパラスペックルが形成されることになります。

転写サイトに結合されることによって、熱拡散が抑えられていることがパラスペックル形成に重要であると考えられます。

パラスペックルの高分子ミセルモデル

私たちは、転写による熱拡散の抑制を考慮に入れて、ABCブロック共重合体の理論を拡張し、パラスペックルの理論を構築しました。

この理論は、末端領域であるAブロックを短くするにつれて、だんだんコアにも位置するようになるという、CRISPR/Casの実験を説明します。

また、この理論は、野生型(CRISPR/Casでいじっていない)パラスペックルは、転写レートを大きくしても、大きさや構造はほとんど変化しないけれども、Aブロックを短くしたパラスペックルの転写レートを大きくすると、コアに位置するAブロックの割合が増えることも予言します[21]。

この結果は、実験的と一致しています[10]。

参考文献

1.H. Sunwoo, M. E. Dinger, J. E. Wilusz, P. P. Amaral, J. S. Mattick, & D. L. Spector, “MEN ε/β nuclear-retained non-coding RNAs are up-regulated upon muscle differentiation and are essential components of paraspeckles”, Genome Res., 19:347–359 (2009). doi: https://doi.org/10.1101/gr.087775.108

2.C. M. Clemson, J. N. Hutchinson, S. A. Sara, A. W. Ensminger, A. H. Fox, A. Chess, & J. B. Lawrence, “An architectural role for a nuclear noncoding RNA: NEAT1 RNA is essential for the structure of paraspeckles”, Mol. Cell, 33:717-26 (2009). doi: https://doi.org/10.1016/j.molcel.2009.01.026

3.Y. T. F. Sasaki , T. Ideue, M. Sano, T. Mituyama, & T. Hirose, “MENε/β noncoding RNAs are essential for structural integrity of nuclear paraspeckles”, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106: 2525–2530 (2009). doi: https://doi.org/10.1073/pnas.0807899106

4.T. Yamazaki, S. Souquere, T. Chujo, S. Kobelke, Y. S. Chong, A. H. Fox, C. S. Bond, S. Nakagawa, G. Pierron, & T. Hirose, “Functional Domains of NEAT1 Architectural lncRNA Induce Paraspeckle Assembly through Phase Separation”, Mol. Cell, 70:1038-1053.e7 (2018). doi: https://doi.org/10.1016/j.molcel.2018.05.019

5.Y. S. Mao, H. Sunwoo, B. Zhang, D. L. Spector, “Direct visualization of the co-transcriptional assembly of a nuclear body by noncoding RNAs”, Nat. Cell Biol., 13:95-101 (2011). doi: https://doi.org/10.1038/ncb2140

6.T. Hirose, G. Virnicchi, A. Tanigawa, T. Naganuma, R. Li, H. Kimura, T. Yokoi, S. Nakagawa, M. Bénard, A. H. Fox, G. Pierron, “NEAT1 long noncoding RNA regulates transcription via protein sequestration within subnuclear bodies”, Mol. Biol. Cell, 25:169-83 (2014). doi: https://doi.org/10.1091/mbc.e13-09-0558

7.J. A. West, M. Mito, S. Kurosaka, T. Takumi, C. Tanegashima, T. Chujo, K. Yanaka, R. E. Kingston, T. Hirose, C. Bond, A. Fox, & S. Nakagawa, “Structural, super-resolution microscopy analysis of paraspeckle nuclear body organization”, J. Cell Biol., 214:817-30 (2016). doi: https://doi.org/10.1083/jcb.201601071

8.S. A. Safran, Statistical thermodynamics of surfaces, interfaces, and membranes, Westview Press, 2003. Amazonで購入

9.M. Doi, Soft Matter Physics, Oxford, 2013. Amazonで購入

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山本哲也
山本哲也
キンメダイ美術館のサイエンティスト
電子工学で学位を取得後、理論物理学者になるため、ドイツ、イスラエル、中国で修行。現在は、習得した理論物理学を使って遺伝子発現制御のメカニズムを明らかにする研究をしています。研究だけでなく、趣味やいろいろ考えていることなどお話ししたいと思います。
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