メカノケミストリーとレオロジーの関係
以前の記事で、メカノケミストリーについてご紹介しました。
要約すると、化学では、反応の材料である反応物を有機溶媒に溶かし、溶液中で反応を起こす方法が一般的です。
それに対して、メカノケミストリーでは、粉のまま(つまり、固体の)反応物を金属のボールと一緒に反応炉に入れて機械的に振動を起こすことにより化学反応を起こします。
固体粒子の間の反応はその界面で起こるので、私は界面での分子の運動に注目して理論を作っています。
界面で反応が起こるとその産物(生成物)が生じます。
反応物が固体状態を維持するためには、一定以上の濃度が必要です。
しかし、界面では生成物の濃度が高くなってしまうので、反応物が固体状態を維持できず、反応物を主に含む新しい状態(生成物リッチ相)ができるということを理論的に導きました。
それをまとめた論文は、日本レオロジー学会誌(まんまですが、日本レオロジー学会の学会誌)に掲載されています。
反応物固体の中にある分子は、非常に安定化しているのですが、少しだけ生成物リッチ相に溶け出しますが、どれくらい溶け出すかということがメカノケミストリーの反応速度を決める重要な因子であることを示しました。
実は、反応炉にほんの少しだけ溶媒を加えると、活性が強くなることが知られています。
加えた溶媒はほんの少しなので、反応物固体を溶かすまでにはいかず、表面を濡らすにとどまると考えられます。
反応物固体の表面には、そう、先ほどお話しした生成物リッチ相ができるので、溶媒は生成物リッチ相の物性を変えると考えられます。
加えた溶媒はほんの少しですので、生成物相がしゃばしゃばになるまでにはならず、固体と液体の中間くらいの状態になると考えられます。
みなさま、高校化学で、物質は気体、液体、固体の三態をとると習うと思いますが、固体と液体の中間とはなんぞやと思われると思います。
たとえば、歯磨き粉、輪ゴム、タイヤ、チューインガム、液晶など、皆様の身の回りにある物質には、ある側面では液体の性質を示し、他の側面では固体の性質を示す、いわば、固体と液体の中間の性質をもつ物質はたくさんあります。
固体に力を加えると変形し、力を外すと元に戻ります。
一方、液体に力を加えると流れ、力を加えても元に戻りません。
たとえば、歯磨き粉は、加える力が弱いと固体のように元に戻るのですが、加える力が強いと液体のように元に戻りません。
固体と液体、その中間を含む材料に力を加えたときの挙動を調べる分野をレオロジーと言います。
メカノケミストリーの話に戻って、反応物固体の間の界面にできる生成物リッチ相は、加えた溶媒によって固体と液体の中間の性質を持つ物質になると考えられるわけですが、メカノケミストリーでは、一緒に加えた金属ボールと反応炉の振動によって力が加えられます。
ですので、メカノケミストリーの本質は、レオロジーなのではないかと思っています。
そんなこともあって、生成物リッチ相の考え方を基礎として、化学反応とレオロジーを組み合わせることにより、メカノケミストリーの理論を作っています。
この理論をまとめた論文は英国王立化学会(Royal Society of Chemistry)が発行している雑誌であるRSC Mechanochemistryに掲載されています。
RSC Mechanochemistryは、その名の通り、メカノケミストリーの専門誌です。
この論文を平易な日本語で解説したプレスリリースも出しておりますので、よければご覧ください。
ただし、以上のことは、これまでの実験的研究で得られてきた状況証拠から私が考えていることであって、世界の共通認識ではないことは注意させていただきます。
