復活する理論たち
物理学は自然の一般法則を探求する学問ですので、自然現象を記述する必要があります。
そのため、実験結果と会わないものは棄却されますし、内部矛盾があるものも棄却されます。
しかし、一度は棄却されたけれども、また復活する理論もまれにあります。
もちろん、論文に計算間違えがあったとか、実験で測定したいものが測定できていなかったなどのトリビアルな理由で復活したものもあると思いますが、そのようなものは除きます。
Klein-Gordon(クラインーゴルドン)方程式
量子力学は、電子などの素粒子を記述するための力学理論です。
当時の最新理論であった量子力学を、光速に近い速度(相対論的極限)で運動する電子に拡張した最初の試みがクラインーゴルドン方程式です。
クラインーゴルドン方程式は、電子のエネルギーが正の値になる解と負の値になる解をもちます。
エネルギーを小さくするように系の運動が起こります。
もし電子のエネルギーが負だと、系のエネルギーを小さくするために、何もないところから負のエネルギーの電子がたくさん生まれることになってしまいますので、この方程式は何かがおかしいと考えられ、棄却されることとなります。
内部矛盾で棄却された例ですね。
その後、相対論的極限で電子の運動を記述する方程式として、ディラック方程式が導かれます。
電子はスピンと呼ばれる磁気的な性質を持っています。
非相対論的な量子力学では、スピンの性質は後から付け加えるしかありませんでした。
一方、ディラック方程式を使って相対論に移行すると、スピンの性質が自然に表れるという非常にきれいな性質を持って今います。
それで、めでたしめでたしのはずでした。
しかし、ディラック方程式も負のエネルギーを持つ解を持っているのです。
それを矛盾なく説明するために、ディラックは「空孔理論」なるものを提案しましたが、現在ではその負のエネルギーの電子は、「陽電子」(ポジトロン)と呼ばれており、それが実験的に見つかってしまいました。
電子が粒子であるのに対して、陽電子は反粒子と呼ばれています。
クラインーゴルドン方程式が棄却された理由は、負のエネルギーの解を持っていたからでした。
ディラック方程式の時と同様、クラインーゴルドン方程式の負のエネルギー解は反粒子を表しているのではないかと考えられます。
ディラック方程式で記述される粒子である電子は、スピンを1/2だけ持っています。
実は、クラインーゴルドン方程式は、スピンを0の粒子を正しく記述する方程式だったのです。
ものを判断するとき、自分には知らないことがあるかもしれないと考えてみることは重要なのかもしれません。
Rouse(ラウス)理論
高分子を溶媒に溶かすと、熱運動によって時々刻々と形を変えることとなります。
高分子の熱運動を記述するために考案されたのがラウス理論です。
ラウス理論は、濃度が薄い(希薄な)溶液中の高分子の運動をある程度記述するのですが、どうしても誤差が生じてしまいます。
高分子の一部が動くと、その周り溶媒を押すので、溶媒の流れが生じます。
その流れによって、その高分子の他の部分の運動が影響を受けるという現象を流体力学的相互作用といいます。
Zimm(ヅィム)は、流体力学的相互作用を加えてラウス理論を改良し、実験との誤差を埋めることに成功しました。
そのため、Zimm理論の方が高分子の運動を記述する上でベターな理論と認識されることとなりました。
これで希薄溶液中での高分子の運動理論が出来上がったわけです。
高分子濃度を高くすると、なんと高分子の運動がラウス理論に近づいてきます。
なぜかというと、たくさんある高分子が、摩擦によって溶媒の流れを止めてしまい、流体力学的相互作用が抑えられてしまうからです。
結果、濃度の濃い溶液(濃厚溶液)や溶媒なしで温度を上げて液化した場合(溶融体、または、メルト)での高分子の運動には、ラウス理論の方が合うという結果となります。
理論がある実験と会わなくても、他の条件の実験と会うこともあるということですね。
