研究のヒント

プレゼンテーションの考え方

tetsu

はじめに

研究成果を社会に還元するためには、プレゼンテーション能力も重要

最近、私のWPIでサイトビジット(現地視察)がありました。

今年は縮小版で、去年の成果について拠点長が1時間くらい発表した後、質疑応答がありました。

それで、審査側のフィードバックの中には、国際的な若手をそだてるためにはなどの興味深い質疑もあったのですが、主なポイントはプレゼンテーションが悪いということでした。

いろいろやったのはわかるけど、まとめて言うと何なのか分からないと。

審査側の方は、サイトビジットの報告書を書かなければなりません。

こういうプレゼンテーションでは、審査員が報告書に何を書けばよいかということを分かりやすくする配慮もしなければならないのかということを今回学んだわけです。

研究者が自分の研究成果を社会に還元する方法はさまざまですが、発表はその重要なアプローチのひとつです。

そこで、私がプレゼンテーションについて教えてもらったこと、学んだことをまとめてみることにします。

プレゼンテーションの中に研究の構造が見えるからです。

ただ、プレゼンテーションに絶対的な自信がある人は少ないと思います。

私も絶対的な自信があるわけではありませんし、日々勉強です。

そのため、プレゼンテーション技術としては、参考程度に聞いていただければと思います。

必要に応じて更新もしていきたいと思います。

私の受けたプレゼンテーション教育

大学の理系の過程では、1~3年生の間、座学だけでなく、そこで学んだことを実験する学生実験があります。

学生実験では、しばしば、その内容を発表する時間を設けられている場合があり、多くの人にとって、その時がプレゼンテーションを用意する初めての機会となると思います。

私が受けた過程では、この時点ではやってみるのが大切で、あまり指導を受けた記憶がありません。

4年生になって、研究室に所属します。

そこでは卒論研究を行いますが、その締めとなる卒論発表が次の大きな発表の機会となります。

ここで初めて、指導教官の先生や先輩にプレゼンテーションの指導をされます。

多くの場合、先輩たちも指導教官の先生に指導されているので、学生のプレゼンテーション能力は指導教官にかなり影響されます。

その意味で、指導教官の先生の責任は重大です。

大学院に進むと、修士論文発表や博士論文発表がありますが、その他にも学会発表を行う機会も増えてきます。

私の場合、博士を取った後、海外でポスドク研究を始めました。

イスラエルに留学したときに、当時のボスにかなりプレゼンテーションの指導を受けました。

今日のお話のほとんどは、ここで教えてもらったことをまとめたものです。

また、名古屋大学に勤務していた時のボスも、プレゼンテーションが非常にうまい人でした。

そこで教えてもらったことも少し含んでいます。

プレゼンテーションの基礎的なスキル

基本的な考え方

プレゼンテーションだけでなく、論文、研究費の申請書など、人に何かを伝えるときに共通することですが、伝えたいことは、一言(または、一文)のメッセージでまとめられることが多いと思います。

そのプレゼンテーションで伝えたいメッセージを書き出すことから始めます。

「○○〇の原因は、×××である」みたいな感じです。

そのメッセージがオーディエンスに伝われば「正解」だということですね。

適当ならば、そのメッセージがプレゼンテーションのタイトルになることがあります。

しかし、そのメッセージを理解するためには説明が必要な場合には、タイトルにしない方がいいかもしれません。

そこは、時と場合によりますね。

目的と結論

サイエンスは、自然現象に関する疑問(Q)に対して、できる限りシンプルな答え(A)を与えることだったりします。

上記の「○○〇の原因は、×××である」のうち、○○〇がQに対応して、×××がAに対応するということですね。

目的はQに答えること、結論はAとなります。

結論がタイトルと同じになってしまってもいいと思います。

私の前のボスの受け売りですが、人の話を聞くというのは通常苦痛です。

その苦痛を和らげるためには、楽しませる必要があります。

せっかく、サイエンスが疑問に答えることなので、楽しいクイズにしてやろうということです。

スライドのタイトル

研究発表では、論文と同様に、背景→目的→研究方法→結果→考察→展望の順に話が進むことが多いと思います。

スライドを作るときに、スライドのタイトルと中身を入れていくわけですが、最初のページのタイトルを「(研究)背景」とか「イントロダクション」とする人も多いと思います。

しかし、背景やイントロダクションから話がはじまることは、みんな知っています。

それよりも、そのスライドで何が言いたいかということを一言でまとめたものをスライドタイトルにする方が効果的です。

スライドタイトルだけを読んでも言いたいことが大体わかるのが理想です。

プレゼンテーションの時間は決まっていることが多いと思います。

私は、スライド1枚につき平均1分かかると見積もり、必要な枚数のからのスライドを用意し、各スライドでいいたいことを考えながら、スライドタイトルだけつけていきます。

スライドタイトルだけ読んでも伝えたいメッセージが伝わるように話を設計します。

メッセージを決めて、スライドのタイトルを割り振るまでがプレゼンテーションの設計であり、一番重要だと思います。

スライドの作成は空白を埋める作業ではない

後は、スライドに図、グラフ、式、文章などのマテリアルを入れていきます。

スライドの空白を埋めなければならないと思っている人もいらっしゃるのですが、そうではありません。

スライド1枚につき平均1分でスライド枚数を決めるということをお話ししました。

つまり、オーディエンスは、初見のスライドを1分程度しか見ないということです。

スライドの中にたくさん図やグラフがあると、1分の間に理解できるわけはありませんし、1分の間に説明も難しくなると思います。

また、グラフの中にたくさん曲線がある場合も同じです。

スライドのタイトルに決めた、そのスライドで言いたいことが伝わる必要最低限のマテリアルを入れることが重要です。

埋めるどころか、空白の量が最大になるスライドがベストです。

式はできるだけ使わない

理論物理の人は、スライドに式を入れればわかるのだろうと思われている節があります。

もちろん、見知っている式やシンプルな式はスライドにぱっと出てきても理解できます。

しかし、初見の式を1分だけ見せられて理解するのは、プロでも一般的には不可能です。

理論物理学は、数学を道具として使いますが、伝えたいことは式ではないことが多いと思います。

式を使って分かったことが伝えたいことだと思います。

式をできるだけ使わずに、図で直感的に分かるようにする方針で考えましょう。

また、式を説明するには時間がかかります。

式を入れるにしても、簡略化して言いたい部分に限定する方が良いでしょう。

私のイスラエルのボスは、プレゼンテーションを前半と後半に分けて、前半は全オーディエンス向けに式を使わずに絵を使って直感的な説明を行い、後半はエキスパート向けに数式とグラフ(計算結果)で説明を行うということをしていました。

プレゼンテーションに関する注意

異分野のオーディエンスに対するプレゼンテーション

私は理論物理学者ですが、分子生物学会に行ったり、分子生物学者の共同研究者にプレゼンテーションをする機会が多いです。

共同研究者にプレゼンテーションをするのと、他の分子生物学者にプレゼンテーションをするのは、同じようで全く異なります。

自分が作っている理論で扱っている系の実験を共同研究者が行っている場合が多いです。

少なくとも、私と共同研究をしてくれた実験家の研究者は、直観力の高い方が多かったです。

そのため、式や物理の言葉で語っても、すべては分からずとも何となく言いたいことが伝わっていました。

しかし、理論で扱っている系を研究しているわけではない分子生物学者に伝えることは非常に難しいです。

これに関しては、日々、試行錯誤しております。

制限時間がある中で基礎から説明することになるのですが、物理の概念でも知っておいて役に立ちそうなことは簡単に説明するようにしています。

ここは、共同研究や学会でオーディエンスと話すことで、分子生物学者がどのように考えるかということを地道に知ることをしています。

これさえ分かっていればということは今のところなく、ここで紹介できないのは残念です。

プレゼンテーションを理由に評価を落とすのはやめましょう

大学や研究費などの評価にプレゼンテーションを行うことが多いです。

自分のプレゼンテーションに絶対の自信がある人は少ないことは、最初にもお話ししたと思います。

プレゼンテーションが下手ということにしてしまえば、それを理由に評価を落としても後で問題になることがあまりないことになります。

そのため、プレゼンテーションは、評価を意図的に落とすために使われてしまうことが多いと思います。

まあ、本当に下手であることもあるとは思いますが。

とはいえ、何が言いたいのかがクリアである場合や、以前に評価者に同じプレゼンテーションをしたことがあるのに、何回目かで初めてプレゼンテーションが悪いと言われたときには、少し疑っちゃいますよね。

評価される人たちの中に、評価者と分野が近い人と遠い人がいる場合、遠い人はだいぶハンデがあります。

遠い分野の人がなぜその評価に関わってくるかというと、その人たちが挑戦しているからです。

評価者がプレゼンテーションをもとに評価を落とすことは、ただでさえ少ない日本の挑戦者をさらに少なくする行為です。

また、異分野融合をした経験がある人は、他の分野の発表を聞いたとしても直感的に理解するセンスがついてきます。

自分と遠い分野の人の評価をプレゼンテーションを理由に下げる評価者は、挑戦したことがないと疑われてしまっても仕方がありません。

評価を下げられた人は、むしろ評価者の先を行っているということもあると思います。

また、そのような評価を受けた人が、評価者のプレゼンテーションを聴く機会は意外とあるものです。

評価者の方々は、ご自身がプレゼンテーションを理由に評価を落とした人を納得させるだけのプレゼンテーションをする自信はありますか?

ABOUT ME
山本哲也
山本哲也
キンメダイ美術館のサイエンティスト
電子工学で学位を取得後、理論物理学者になるため、ドイツ、イスラエル、中国で修行。現在は、習得した理論物理学を使って遺伝子発現制御のメカニズムを明らかにする研究をしています。研究だけでなく、趣味やいろいろ考えていることなどお話ししたいと思います。
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