コンデンシンと分裂期染色体

tetsu

学術変革領域ゲノムモダリティ

ゲノムモダリティは、京都大学の西山朋子さんを代表とする学術変革領域です。

20世紀には、DNAの塩基配列の持つ情報を読み解けばその機能がわかると考えられていましたが、この領域の特徴は、DNAの物性からその機能を明らかにするという特徴があります。

私は、同じく京都大学の高田彰二さん率いる理論班(ゲノムモダリティのマルチスケール理論)の研究分担者として参加させていただきました。

ゲノムモダリティは、2020年の4月から始まりましたが、たしかコロナパンデミックで開始が少し遅れたと記憶しています。

2025年の3月の領域会議をもってフィナーレを迎えました。

研究機関内に計画していた研究が終わらなかったので、1年延長したため、報告書は今年度に提出することとなります。

今日の午前中は、その報告書を書きました。

せっかくなので、このブログでもどのような研究をしていたかご紹介したいと思います。

分裂期染色体とその形成に必要な因子

私たちヒトのような真核生物のDNAは、細胞分裂が起こる分裂期になると、棒状の凝集構造である分裂期染色体を形成します。

分裂期染色体の形成にどのような分子が関わるかということが分かったのは実は比較的最近です。

その発見に貢献されたのは、平野達也さんという科学者です。

カエルの卵をすりつぶし、遠心分離機で卵細胞の中の液体を取り出した液体(カエル卵抽出液)の中に、カエルの精子核由来のDNAを入れると、分裂期染色体のような構造を形成することを発見されました[1]。

その構造を調べたところ、コンデンシン、トポイソメラーゼII、ヌクレオソームが分裂期染色体形成に必須な因子であることが明らかになりました[1]。

その中でも、コンデンシンは分裂期染色体の形成に主要な役割を果たすタンパク質複合体で、この研究で初めて発見されました。

トポイソメラーゼIIは、DNAの絡み合いをほどく活性を持っています。

真核生物のDNAは、ヒストンとの複合体であるクロマチンを形成しています。

クロマチンは高分子構造(つまり、同じ繰り返し単位がつながった構造)を持っており、その繰り返し単位であるヌクレオソームは、ヒストンの8量体(8つのヒストンが複合体を形成したもの)に巻き付いた構造となっています。

酵母ではコンデンシンは1種類しかありませんが、ヒトなどの高等生物ではコンデンシンは二種類(コンデンシンIとII)あります。

コンデンシンIは、普段は核の外にあり、DNAから離れているのですが、分裂期に入って核膜が破れるとDNAに結合し、分裂期染色体の形成に主要な役割をします。

平野グループは、精製したコンデンシンI、ヌクレオソーム形成因子、トポイソメラーゼIIで分裂期染色体を再構成することにより、これらの因子が分裂期染色体形成の十分条件であることを示しました[2]。

しかし、分裂期染色体が形成されるメカニズムは不明でした。

コンデンシンのループ押し出し活性

分裂期染色体形成のメカニズムに対する重要な示唆は、なんと理論から得られました。

John Markoさんのグループは、コンデンシンのループ押出し(loop extrusion)が分裂期染色体の主要な機構であることを理論的に予言しました[3]。

以前の記事で、コヒーシンのループ押し出しをご紹介しました。

コンデンシンもリング状のタンパク質で、DNAを内包することによってループを形成します。

DNAをループ側に押し出し、ループを大きくする活性をループ押出しといいます。

Markoさんが理論を提唱した当時、コンデンシンがループ押出しをすることはおろか、分子モータであるとも認識されていませんでした。

もし、分裂期染色体の凝集の原因が、DNAが引っ付くことによるならば、表面を小さくするために球形の構造を形成するはずです。

それに対して、ミセルは棒状構造を形成することができます。

コンデンシンによって押し出されたDNAループ間に反発性の相互作用がある場合、DNAはミセル状構造を形成することがループ押出しの発想の原点になったようです。

Markoさんは、Anton GoloborodkoさんとLeonid Mirnyさんとの共同研究で、さらに詳細なシミュレーションを行っています[4,5]。

その1年後、当時ブラウン大学にいらっしゃった寺川剛さんが一分子計測で、コンデンシンが分子モータであることを示されました[6]。

さらに1年後、Dekkerらのグループが、コンデンシンのループ押出し活性を一分子計測でとらえています[7]。

これらの実験的根拠によって、コンデンシンのループ押出し活性が分裂期染色体の主要な機構であると認識されるようになりました。

参考文献

[1] T. Hirano & T. J. Mitchison, A heterodimeric coiled-coil protein required for mitotic chromosome condensation in vitro, Cell, 79: 449-58 (1994). doi: https://doi.org/10.1016/0092-8674(94)90254-2

[2] K. Shintomi, T. S. Takahashi, & T. Hirano, Reconstitution of mitotic chromatids with a minimum set of purified factors, Nature Cell Biology, 17: 1014–1023 (2015). doi: https://doi.org/10.1038/ncb3187

[3] E. Alipour & J. F. Marko, Self-organization of domain structures by DNA-loop-extruding enzymes, Nucleic Acids Res., 40:11202–11212 (2012). doi: https://doi.org/10.1093/nar/gks925

[4] A. Goloborodko, J. F. Marko, & L. Mirny, Chromosome Compaction by Active Loop Extrusion, Biophys. J., 110: 2162–2168 (2016). doi: https://doi.org/10.1016/j.bpj.2016.02.041

[5] A. Goloborodko, M. V. Imakaev, J. F. Marko, & L. Mirny, Compaction and segregation of sister chromatids via active loop extrusion. eLife, 5: e14864 (2016). doi: https://doi.org/10.7554/eLife.14864

[6] T. Terakawa, S. Bisht, J. M. Eefens, C. Dekker, C. H. Haering, & E. C. Greene, The condensin complex is a mechanochemical motor that translocates along DNA. Science, 358:672–676 (2017). doi: https://doi.org/10.1126/science.aan6516.

[7] M. Ganji, I. A. Shaltiel, S. Bisht, E. Kim, A. Kalichava, C. H. Haering, & C. Dekker, Real-time imaging of DNA loop extrusion by condensin. Science, 360, 102-105 (2018). doi: https://doi.org/10.1126/science.aar7831

ABOUT ME
山本哲也
山本哲也
キンメダイ美術館のサイエンティスト
電子工学で学位を取得後、理論物理学者になるため、ドイツ、イスラエル、中国で修行。現在は、習得した理論物理学を使って遺伝子発現制御のメカニズムを明らかにする研究をしています。研究だけでなく、趣味やいろいろ考えていることなどお話ししたいと思います。
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