核小体の多相構造とリボソームRNAの転写

tetsu

はじめに

核小体の多相構造

タンパク質は、翻訳というプロセスによって合成されます。

その翻訳の主役となる酵素が、リボソームです。

リボソームは、RNAとタンパク質の複合体(Ribonucleoprotein複合体、または、RNP複合体)です。

リボソームの骨格となるリボソームRNA(rRNA)は、核小体内で合成されます。

リボソームRNAが合成されると、様々な化学的プロセス(メチル化されたり切り貼りされたり)を受け、様々なRNA結合タンパク質(RNA-binding protein、または、RBP)と複合体を作り、核小体内でリボソームにくみ上げられていきます。

高等生物の核小体は、一様な液滴ではなく、内部にサブコンパートメントが形成されています。

サブコンパートメントは海島構造を形成しています[1]。

島に対応するサブコンパートメントは繊維状中心(Fibrillar Center、または、FC)、海に対応するサブコンパートメントは顆粒部(Granular Component、または、GC)と呼ばれています。

また、それぞれのFCとGCの界面には、高密度繊維状部(Dense Fibrillar Component 、または、DFC)と呼ばれる層が形成されています。

核小体がなぜこのような構造を形成するのかを考えていきます。

核小体の多相構造は液液相分離でできている?

液液相分離は、核内構造体形成の一般原理だと考えられていたことを前にお話ししました。

Brangwynneらは、DFCの主要なタンパク質であるフィブリラリン(fibrillarin、または、FBL)とGCの主要なタンパク質であるニュークレオフォスミン(nucleophosmine、または、NPM)を精製し、これらのタンパク質の水溶液が液液相分離することをを実験的に示しました[2]。

NPMの相分離凝集体の中にFBLの凝集体を形成することができることから、核小体の多相構造も液液相分離で説明できるのではないかと示唆されました。

前の記事で議論した通り、相分離凝集体のダイナミクスは、表面エネルギーによって支配されています。

表面エネルギーは、液液相分離が起こると、凝集体内部の分子は安定になるのですが、界面の分子は液相と接しているために不安定であることを定量化したもので、凝集体の表面積に比例します。

そのため、凝集体は融合して表面積を小さくし、最終的には大きな1つの凝集体になってしまいます。

しかし、核小体内部では複数のFCが分散しているので、液液相分離ではないように思えます。

それに関し、ひとつ面白い実験があります。

転写を止めると構造が変わる

rRNAは、RNAポリメラーゼI(Pol I)によって転写されます。

Pol Iの活性を抑制すると、FCが融合して1つの大きな凝集体となってしまい、海島構造が崩れてしまいます[3]。

つまり、転写を止めると、FCが相分離凝集体と同じ性質を示すようになるということです。

大きくなったFCは核小体の表面に移動することが多いため、nucleolar capと呼ばれます。

この実験結果は、核小体が海島構造を形成する原因は、rRNAの転写にあることを強く示唆しています。

核小体の多相構造の形成機構

リボソームRNAの転写はFCの界面で起こる

それでは、rRNAの転写は核小体内部のどこで起きているでしょうか。

rRNAの転写が起こるリボソームDNA(rDNA)は、rRNAの配列(coding unit、10kbpsくらい)と配列間領域(integenic region、30kbpsくらい)を1つの単位とした繰り返し配列となっています。

rDNAは、FCの界面にあることが超解像顕微鏡で観察されています[4]。

また、RNA Pol Iは、FCに局在化していることが遺伝研の井出さんたちによって観察されています[3]。

そう、rRNAの転写は、FCの表面で起こるのです。

rRNAが転写されると、化学修飾や切断・結合などの様々なプロセスを経てリボソームになっていくのですが、それらのプロセスを経る前のrRNAを特にpre-rRNAと呼びます。

転写中(生成途中)のpre-rRNAはDFCで観察されるのですが、先端の部分はGC側の界面付近で観察されます[5]。

このことは、rRNAがDFC層を形成する足場となっている(つまり、arcRNAとなっている)ことを示唆しています。

マイクロエマルション

水と油を容器に入れて、しばらくたつと、水を主成分とする領域と油を主成分とする領域に相分離します。

相分離すると、それぞれの領域内部では水と水、油と油が相互作用しているので安定なのですが、界面では水と油が強制的に接触させられているので不安定です。

その不安定さの度合いを定量化した量を表面エネルギーと言います。

表面エネルギーは、界面の面積に比例します。

相分子凝集体(たとえば、水の中の油の液滴)は、その界面の面積の和を小さくするように運動します。

そのため、ある時点で複数の凝集体があったとしても、界面の面積を最小にするために、凝集体が融合して(あるいは、粗大化して)大きくなります。

最終的には1つの大きな凝集体になってしまいます。

しかし、水と油の系に界面活性剤を少量加えると、話が変わってきます。

界面活性剤とは、疎水性を持つ部位と親水性を持つ部位が結合した構造を持っています。

疎水性を持つ部位は、アルキル鎖やアシル鎖など、繰り返し単位が結合したある程度やわらかい鎖となっている場合が多いです。

脂肪酸などは疎水鎖が1つですが、脂質は2つ持っています。

疎水鎖は、水と相互作用すると不安定になりますので、油と相互作用するか、疎水鎖の間で集まる傾向ああります。

一方、親水性を持つ部位は、水と相互作用すると安定化します。

電荷をもっていたり、立体排除が大きかったりなど、理由は様々ですが、親水基の間では反発力が働くことが多いです。

疎水鎖をテイル(しっぽ)、親水基をヘッド(あたま)と呼ぶこともあります。

水と油の系に、少量の界面活性剤を加えると、界面活性剤は水と油の界面に集まってきます。

もちろん、親水基は水と、疎水鎖は油と相互作用するように、向きがそろった状態になり、界面を安定化します。

その結果、複数の小さい油の液滴(相分離凝集体)が分散した状態になります。

力学的には、親水基の間の反発によって、界面と平行な方向に圧力(表面圧)が働きます。

表面エネルギーは、表面張力に界面の面積をかけたものになります。

界面活性剤によって発生する表面圧は、表面張力の逆向きの力ですので、表面張力を弱めることになります。

これが複数の小さい液滴を安定化させる原因となります。

界面活性剤によって安定化された水中の油滴をマイクロエマルションと言います。

生成途中のpre-RNAは界面活性剤として働く

前述の通り、pre-rRNAの転写はFCの界面で起こるので、生成途中でまだPol Iについているpre-rRNAはFC界面に局在化しています。

この状況は、マイクロエマルションにおける界面活性剤の状況と非常に似たじょうきょうになってますよね。

ただし、マイクロエマルションにおける界面活性剤は、界面にあったほうが安定になるので界面に局在化するのに対し、pre-rRNAは転写によって無理やり界面に局在化させられている状態です。

そこで、転写によるpre-rRNAの生成を考慮に入れて、安定なFCの大きさを計算してみることにしました[6]。

生成途中のpre-rRNAには、フィブリラリンが結合します。

結合したフィブリラリンの間には多価相互作用が働きます。

フィブリラリン間の相互作用によってpre-rRNAが凝集すると思いきや、フィブリラリンの濃度が生理濃度くらいであると、DFC領域にフィブリラリンを引き込むために、pre-rRNAが伸びるという結果を得ました。

結合したフィブリラリンによってpre-rRNAが凝集するのは、溶媒が水の場合です。

一方、DFC層ではフィブリラリンが溶媒の代わりになるくらいの濃度ですので、pre-rRNAがむしろ伸びるのです。

その結果、DFC層では、層と平行に浸透圧(表面圧)が働きます。

マイクロエマルションの時と同様に、表面圧が表面張力を弱めるために、界面が安定化し、複数のFCが分散するようになります。

Pol Iの転写を止めると、FCが融合してしまうことと整合していますよね。

また、安定なFCの半径は、転写レートの-1/2乗に比例して小さくなることも計算によって分かりました。

共同研究者の山崎さん(阪大)に測定してもらったところ、FCの半径が転写レベルのなんと-0.49乗に比例して小さくなることが実験的に示されました。

ここまでは実験と理論を使って詰めることができました。

参考文献

1.D. Lafontaine, J. Riback, R. Bascetin & C. Brangwynne, “The nucleolus as a multiphase liquid condensate.”, Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 22: 165–182 (2021). doi: https://doi.org/10.1038/s41580-020-0272-6

2.M. Feric, N. Vaidya, T. S. Harmon, D. M. Mitrea, L. Zhu, T. M. Richardson, R. W. Kriwacki, R. V. Pappu, C. P. Brangwynne, “Coexisting Liquid Phases Underlie Nucleolar Subcompartments”, Cell, 165:1686-1697 (2016). doi: https://doi.org/10.1016/j.cell.2016.04.047

3.S. Ide, R. Imai, H. Ochi, & K. Maeshima, “Transcriptional suppression of ribosomal DNA with phase separation”, Sci. Adv., 6:eabb5953 (2020). doi: https://doi.org/10.1126/sciadv.abb5953

4.A. Maiser, S. Dillinger, G. Längst, L. Schermelleh, H. Leonhardt, & A. Németh, “Super-resolution in situ analysis of active ribosomal DNA chromatin organization in the nucleolus”, Sci. Rep., 10:7462 (2020). doi: https://doi.org/10.1038/s41598-020-64589-x

5.R. W. Yao, G. Xu, Y. Wang, L. Shan, P. F. Luan, Y. Wang, M. Wu, L. Z. Yang, Y. H. Xing, L. Yang, & L. L. Chen, “Nascent Pre-rRNA Sorting via Phase Separation Drives the Assembly of Dense Fibrillar Components in the Human Nucleolus”, Mol. Cell, 76:767-783.e11 (2019). doi: https://doi.org/10.1016/j.molcel.2019.08.014

6.T. Yamamoto, T. Yamazaki, K. Ninomiya, & T. Hirose, “Nascent ribosomal RNA act as surfactant that suppresses growth of fibrillar centers in nucleolus”, Comm. Biol., 6: 1129 (2023). doi: https://doi.org/10.1038/s42003-023-05519-1 プレスリリース

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山本哲也
山本哲也
キンメダイ美術館のサイエンティスト
電子工学で学位を取得後、理論物理学者になるため、ドイツ、イスラエル、中国で修行。現在は、習得した理論物理学を使って遺伝子発現制御のメカニズムを明らかにする研究をしています。研究だけでなく、趣味やいろいろ考えていることなどお話ししたいと思います。
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