ノーベル賞を解説してみる

tetsu

ノーベル賞とは

ノーベル賞は、ダイナマイトの発明で巨額の資産を得たアルフレッド・ノーベルの遺言に従って、“those who, during the preceding year, shall have conferred the greatest benefit to humankind.”(その前の年に人類に最も貢献した人)に与えられるものです。

最初の受賞は1901年で、物理学賞はX線の発見者であるレントゲンに、化学賞は化学熱力学のファント・ホッフに与えられています。

ノーベル賞が注目される理由として、比較的中立な立場で受賞者が選ばれること、賞金が非常に大きいことがよく挙げられます。

科学史という立場で見ても、今のサイエンスを作り上げている仕事をした人はほぼ受賞されています。

もちろん、例外もありますが。

21世紀になって、それぞれの研究者が自分の分野を見つけて開拓していく時代になりましたので、受賞者を選ぶのも難しいだろうなと思います。

とはいえ、まだ20世紀の仕事に対して賞が与えられることも多いです。

新聞やニュースで取り上げられる科学の話題は、研究不正だとか、そんなネガティブなものが最近多いですよね。

また、21世紀になってから、日本の基礎研究がダメになっているということもよく聞かれると思います。

そんな中で、ノーベル賞は、非常にポジティブなニュースで、サイエンスのイメージ向上に貢献してくれていると思います。

昔のノーベル賞に関しては、私の研究と関係しているものを中心として別の記事で解説したいと思います。

この記事では最近のノーベル賞についてできるだけわかりやすく解説したいと思います。

2026年ノーベル賞

物理学賞:IceCube観測所による高エネルギーニュートリノの発見

2026年のノーベル物理学賞は、Francis Halzen教授に授与されました。

彼の研究は、ニュートリノを測定することにより、遠い宇宙で起きている現象を明らかにすることです。

ニュートリノの測定というと、日本人には2002年にノーベル物理学賞を授与された小柴昌俊先生を思い浮かべる方も多いかもしれません。

彼は岐阜県神岡の直径19m、高さ16mのプールに超純水をはり、壁面に光電子増倍管という光を検出する装置をつけることにより、ニュートリノを測定するカミオカンデを構築しました。

カミオカンデでは、超新星爆発によって飛んできたニュートリノを検出できたという段階で、それから何か情報を得ることは困難だったのだろうと思います。

Francis Halzen先生は、南極の氷を通るニュートリノを検出するIceCubeという装置を作りました。

ノーベル賞のアナウンスメントで解説してくれた先生は、1日に1個くらいと言っていたと思います。

氷を通るニュートリノは、いわゆる弱い核力によってミュオン(μ粒子)に変換されます。

物質中を高速で走る粒子は、チェレンコフ輻射というメカニズムで光を発するので、それを測定するという原理です。

質量をもつ粒子の速度は真空中の光速を超えることはできませんが、物質中の光の速度を超えると光が輻射される現象がチェレンコフ輻射です。

チェレンコフ輻射は、ランダウーリフシッツの物質の電磁気学かなんかで読んだ気がするのですが、よく覚えていないので、復習してから書き直します。

なんでニュートリノを測定したいかというと、ニュートリノは弱い核力でしか相互作用をしませんので、様々な物質を透過します。

つまり、他の物質と干渉せずに地球に届くので、ニュートリノを測定することによって、天体現象に関する情報が得られます。

原子核(α線)、電子(β線)、光(γ線)だとそうはいきません。

これから、ニュートリノの測定で天体現象の観察ができるようになりそうなので、宇宙物理学が発展しそうですね。

化学賞:不斉合成における非線形性と自己触媒の発見

有機分子の中には、2つのバージョンを持つキラル分子というものがあります。

そのバージョンは同じ原子から構成されていて、同じように連結しているのですが、構造が右手と左手のように、互いに鏡に映した関係となっています。

キラル分子の「キラル」とは、ギリシャ語で手のことです。

一般的にキラル分子を有機合成すると、右手分子と左手分子が同じ確率でできるので、両社が混ざったラセミ混合物ができます。

一方の分子を選択的に合成する方法を不斉合成といいます。

不斉合成というと、2001年にノーベル賞を取った野依良治さんを覚えている方もいらっしゃるかもしれません。

生物を構成するタンパク質の材料であるアミノ酸もキラル分子です。

どういう訳か、生物を構成するタンパク質のアミノ酸はすべて片方のキラル分子です。

おそらく、初期の生命で起こった何かのメカニズムで片方のアミノ酸が優勢となったのだと考えられますが、そのメカニズムはどのようなものであったのでしょうか?

また、我々の体がキラル分子でできているがゆえに、薬として取り込む分子がどちらであるかということで効果が異なる場合があります。

野依さんたちのメカニズムでは、反応に使う触媒がすでにキラルでした。

系に加えるキラル触媒の量を増やすと、片方のキラルができる割合もそれに比例して増えると考えられていたそうです。

今回受賞されたHenri Kaganさんは、非線形性を持つ反応を見つけ、片方のキラルが(比例する場合と比べて)優勢になるような反応を見つけました。

また、同じく受賞された硤合憲三さんは、合成されたキラル分子自体がその反応の触媒となるような反応系を作りました。

右手分子ができれば、その分子自体が右手分子の合成を早くするので、右手分子の量が左手よりも多くなるのです。

これが生物が片方のアミノ酸のみを持っているメカニズム・・・かどうかはまだ分かりませんが、少なくとも、片方の分子からなる薬剤を合成するためには役に立ちそうです。

ABOUT ME
山本哲也
山本哲也
キンメダイ美術館のサイエンティスト
電子工学で学位を取得後、理論物理学者になるため、ドイツ、イスラエル、中国で修行。現在は、習得した理論物理学を使って遺伝子発現制御のメカニズムを明らかにする研究をしています。研究だけでなく、趣味やいろいろ考えていることなどお話ししたいと思います。
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