名古屋で研究していた時のこと

tetsu

名古屋での研究

量産車の構造材料としての炭素繊維複合材料

名古屋に移って最初の2年は、複合材料のセンターの所属でした。

自動車に詰め込む部品がどんどん増えてきて、構造材料は強く、軽いものにする必要が出てきました。

当時、日本の企業は、軽量なアルミニウムを使っていました。

しかし、アルミニウムは加工が難しく、欧米では不可能でした。

そのため、ヨーロッパでは樹脂とガラスの複合材料である、ガラス強化複合材料を使うアプローチを取っていました。

アルミニウムとガラス繊維強化材料は、重さに対する強度が同じくらいなので、優劣は無いように思えるかもしれません。

しかし、アルミニウムの加工は、軽量という意味では、従来の金属加工の最終形です。

一方、ガラス繊維強化材料は、複合材料の始まりであり、繊維の材質を変えることによって先に進むことができます。

そう、過去の延長よりも、奥行きが重要なのです。

これは、自動車業界だけに言えることではなく、産業・学問全体に言えることだと思います。

そこで、炭素繊維複合材料のステージになって日本は複合材料に参入することになったわけです。

当時、炭素繊維複合材量は、ボーイング787や高級車にすでに実用化されていました。

しかし、量産車への実用化は未達でした。

つまり、時間をかけて作ることはできるのですが、量産車ともなると、数分で1つ成形しなくてはなりません。

そう、重要なのは時間なのです。

私が所属していたセンターは、名古屋大学の組織ということになっていたかと思いますが、センター専任の所属は数人であり、研究を進めていたのはほぼ企業の方々でした。

私たちは、設計、成形、材料、学術などのワーキンググループに分かれて研究をしていました。

学術ワーキンググループは、センターに関係する複合材料研究をする、大学の(主に機械工学専攻)と兼任する先生方からなっています。

1年に1度、学術ワーキンググループの会議があり、そこで研究成果を報告する形です。

私は成形と学術ワーキンググループで活動をしていました。

最初の会議の時、成形ワーキンググループに企業側から参加されている方の発表で、気になる式が出てきました。

この式、どうして出てきたんだろう?と思って、それを解析してみました。

その結果、出された式は、材料の流れのみを考えた式だったということが分かりました。

成形を見ていて、コールドプレスで成形性は、流れることと固まることの速さのバランスで決まると思って、熱輸送方程式と流体力学方程式を組み合わせて、複合材料成形の理論を作ってみました[1]。

この理論は、センターで流動理論と呼ばれることとなりました。

現在のメカノケミストリーの理論に生きています。

化学反応があるという点では違うのですが、センターで行っていた複合材料の成形系とボールミルによるメカノケミカル反応系は共通のエッセンスがあると思っています。

真核生物における転写制御

私は、イスラエルでDNAブラシの転写ダイナミクスの研究をしていました。

DNAブラシは、たくさんのDNAの先っぽを表面に結合して作る構造です。

この話はすでに記事にしたので、ぜひご参照ください。

研究自体はほぼ2009年に行っていたのですが、いろいろあって論文化は2015年になってしまいました。

名古屋での研究開始までに時間ができたので、その間に論文を書きました[2]。

DNAブラシの研究によって、転写ダイナミクスが遺伝子付近のDNA構造によって制御され、逆に、系の構造が転写ダイナミクスによって制御されることを学びました。

この知見は重要だと思っていたので、名古屋に移ってからは、DNAブラシを実際の生物系に拡張する方向性で研究をスタートしました。

しかし、最初の二年は複合材料のセンターの仕事に非常に時間を取られていたので、遺伝子発現制御の研究は週末しかできませんでした。

朝早く来て論文を読む時間も取っていました。

Hi-Cという技術を使ったDNA構造の解析に関する論文を読んでいました。

面白そうだという直感はあったのですが、全然わからず、何回も何回も挑戦していました。

生物の論文をまともに読めるようになるまで1年くらいかかったと思います。

いまでもすごい自信があるわけではありませんが、それでも参入障壁にはなっているとおもいます。

また、助教になりたてくらいでないと、1年間も異分野の論文を読み込むなんてことはできないと思いますので、良いタイミングだったと思います。

真核生物のDNAは、ヒストンとの複合体であるクロマチンを形成しています。

名古屋に移る前に、Helmut Schiesselさんとこのプロジェクトに関するヨーロッパの研究費を応募していました。

結局採択されなかったのですが、プロジェクト自体は面白いのでやろうということで、DNAブラシをクロマチンに拡張すること(クロマチンブラシ)から始めました[3-5]。

クロマチンブラシの研究もすでに記事にしていますので、詳しくはそちらを。

トポロジカルドメインとループ押し出し

複合材料のセンターから物質科学専攻に移ってからは、遺伝子発現制御の研究がメインになりました。

そのころ、Schiesselさんに、ループ押し出し(loop extrusion)について教えてもらいました。

Hi-C論文の意味について本当にちゃんと理解したのはこのころですね。

しかも、自分では理解できず、競合相手であるMITのMirnyさんに教えてもらったようなものです。

ループ押し出しのメカニズムの究明に関する記事とそれによる転写制御に関する記事も併せてご覧ください。

Hi-Cで明らかになったトポロジカルドメイン(Topologically Associated Domain, TAD)が、コヒーシンがループ押し出しというモータ活性を持つとすると説明できるというものです。

当時は、一分子観察で、コヒーシンはモータ活性を持たないという実験結果が出ていたので、モータ活性を持たないのにループ押し出しと同様な運動ができないかと考え、反撃に出ました[6]。

しかし、エジンバラのMarenduzzoさんが同じようなアイデアを同時期に発表しました。

複合材料のセンターに時間をかなりとられて、しかもほぼ1人で、どのようにチームを持っている海外の研究者と戦えばいいんだろうと、日本の若手研究者の置かれた状況と海外研究者の状況との差に絶望したこともあります。

このような状況なので、日本で研究している限り、スピードと量の勝負になる研究は止めた方がいいのです。

問題は、上の人の中にはそれを理解せず、スピードと量の勝負になる研究をすることを要求してくることも多いことが問題なのですが。

考えたアイデアは、それほどスピードや量の勝負になるようなものではなかったと思います。

しかし、似たアイデアが他から出てくるということは、オリジナリティが十分でないと考えるのが正しいでしょう。

それでこの研究に興味を失い、代わりに、コヒーシンのループ押し出しによるDNAの運動を解析する研究を始めました[7]。

この頃は、ゲノムの構造や機能に関する実験的知見が次々と明らかになった時代でした。

ちょうど私も自由に研究できる立場にあったために、非常にエキサイティングな経験ができました。

この頃、新学術の公募研究やさきがけに採択され、分子生物学者とも交流を深めはじめました。

高分子物理とレオロジー

名古屋に移ってからも、土井先生との共同研究を続けました。

その話は、アップデートの時にでも追記したいと思います。

名古屋での生活

居住環境は良くなかったが、工夫して睡眠障害を克服

名古屋にいたときには、何かとストレスがたまることが多く、不眠症気味になったのはこの頃でした。

また、ストレスだけでなく、居住環境も問題でした。

私はGが大嫌いなので、川から離れたできるだけ新築の物件を探したというのもありますが、その物件がスナックのとなりだったのは誤算でした。

海外から移動したので、入居前に内見ができなかったことも要因のひとつだと思います。

次の日は月曜日だというのに、日曜日の夜遅くまでカラオケをやっているのが聞こえるし、お客様のお帰りになるとまたなんかうるさいし。

睡眠対策として、すぐに思い浮かぶのは、寝具を工夫することですよね。

ウレタンマットレスにしたり、安眠枕を試してみたりしました。

その他にもいろいろやってみたのですが、一番効いたのは、意外にも「寝たまんまヨガ」という睡眠アプリでした。

このアプリは、寝るときに布団の中でヨガをするのですが、結構寝落ちするんですよね。

いくつかプログラムがあって、アプリ内で買う形式でした。

同じプログラムをずっとやっていると、慣れてしまって、効果が無くなってくるんですよね。

なので、定期的にプログラムを購入していました。

たしか、プログラム1つが500円前後から1000円くらいだったと思います。

現在は、寝たまんまヨガは終わってしまって、いまはcocorusというアプリになりました。

こちらは、買い切りではなく、月ごとの課金となりましたが、プログラムは爆増しました。

これとマインドフルネスで寝つきの方はだいぶ改善されました。

紹介するためにはもう1回読み返したいですが、良かったマインドフルネスの本はいつか紹介したいと思います。

ちなみに、cocorusには、いくつかマインドフルネスのプログラムもあります。

これで、隣でカラオケをやっていてもお構いなしに眠ることができるようになりました。

寝つきの方で問題を抱えていらっしゃる方は、少なくとも私には効果があったので、試してみることをお勧めします。

食生活

その前にいた中国では食堂が驚くほど安く、自炊をするよりも安価であったため、自炊をする習慣が無くなりました。

また、Gが嫌いなので、出来るだけ生ごみを出したくない、家の中に食料を入れたくないとも思っていました。

そのため、食事は基本、外食でした。

ただ、昼食は研究室でサンドイッチやパスタを作っていました。

私が住んでいた地域には、近くに吉野家などの比較的安いチェーン店が多かったので、朝食や週末の夕食はそれを利用することが多かったです。

月~金曜日の夕食は大学生協の食堂を利用してました。

週末の過ごし方

複合材料のセンターの仕事に時間を取られていた時には、週末にしか自分の研究の時間を取ることができませんでした。

夕方になると、本屋に行って本を買って、ミスタードーナッツでドーナッツとコーヒーを楽しみながら本を読んで過ごしていたと思います。

複合材料のセンターの仕事にかなりの時間を取られていたことから、かなりストレスを感じていたこともあって、脳科学の本が多かったと思います。

今となっては、金融の本も読んでおけばよかったと思っています。

また、当時読んでいたことはほぼ覚えていないので、ちゃんとブログで紹介するなどしてアウトプットしておけばよかったと思っています。

Tarzanという雑誌もよく読んでいた気がします。

Tarzanは男性誌ですが、ファッション誌ではなく、生活の知恵のようなことが書かれています。

夕方はジョギングもしていました。

最初は長距離のジョギングをしていました。

給水をしながらジョギングをすると、終わるころには汗がダラダラになり、シャワーを浴びてもまた汗が出てきて元の木阿弥になる・・・ことがありました。

かといって、給水を制限すると、終わるころには脱水症状になっていて動けなくなりました。

また、出張などで、二週間間置いたあと長時間ジョギングをすると、足腰がいたくなります。

おそらく、毎週ジョギングをすることによって、ある程度筋肉がついていて、筋肉が足腰をまもっているのですが、二週間も明けてしまうと、筋肉がしぼんでしまうので、足腰に直接ダメージが加わるのでしょう。

そのうちジョギングに使える時間がなくなってきたので、塩釜口から八事までになりました。

たまに、海まで走ってみようというのもやってましたけど。

そのコースでは、昭和高校を通るのですが、遺伝子発現制御の研究をするようになってからインタラクションするようになった研究者の出身校だと知って驚きました。

近くに弓道場があることを知ってからは、午前中に弓道するようになりました。

さきがけを取った後は、弓道もなかなか行くことはできなくなりましたし、ジョギングも先ほど言った塩釜口ー八事コースになりました。

たまに、栄で世界のビールフェスタをやっていて、ビールを飲みに行くとなぜかいつも隣の研究室に会うということもありました。

あと、映画は結構よく見に行きました。

ディズニーだったり、スターウォーズだったり、ちはやふる(実写版)だったり、見るものはさまざまでした。

でも、良かった映画をDVDを買って家でも見ても、なんか違うなと思うんですよね。

今思えば、名古屋にいたときには、ある程度活動的だったと思います。

ポスドクから助教になって、少し経済的に余裕がでてきたからかもしれません。

追記

サムネイルに名古屋にいたときにとった写真を載せたく、探してみたのですが1枚もありませんでした。

そんなに写真を撮ってなかったかな?

無いのだから撮ってなかったのでしょうね。

参考文献

1. T. Ishikawa, K. Amaoka, Y. Masubuchi, T. Yamamoto, A. Yamanaka, M. Arai, & J. Takahashi, “Overview of automotive structural composites technology developments in Japan”, Composites Science and Technology, 155: 221-246 (2018). doi: https://doi.org/10.1016/j.compscitech.2017.09.015

2. T. Yamamoto & S. A. Safran, “Transcription rates in DNA brushes”, Soft Matter, 11: 3017-3021 (2015). doi: https://doi.org/10.1039/C4SM02871F

3. T. Yamamoto and H. Schiessel, Transcription Driven Phase Separation in Chromatin Brush, Langmuir, 32: 3036–3044 (2016). doi: https://doi.org/10.1021/acs.langmuir.6b00442

4. T. Yamamoto and H. Schiessel, Transcription dynamics stabilizes nucleus-like layer structure in chromatin brush, Soft Matter, 13: 5307-5316 (2017). doi: https://doi.org/10.1039/C7SM00239D

5.T. Yamamoto & H. Schiessel, “Chromatin gels are auxetic due to cooperative nucleosome assembly and disassembly dynamics”, Europhys. Lett., 118: 28003 (2017). doi: https://doi.org/10.1209/0295-5075/118/28003

6.T. Yamamoto & H. Schiessel, “Osmotic mechanism of the loop extrusion process”, Phys. Rev. E, 96: 030402(R) (2017). doi: https://doi.org/10.1103/PhysRevE.96.030402

7.T. Yamamoto, T. Sakaue, & H. Schiessel, “Loop extrusion drives very different dynamics for Rouse chains in bulk solutions and at interfaces”, Europhys. Lett., 127, 38002 (2019). doi: https://doi.org/10.1209/0295-5075/127/38002

ABOUT ME
山本哲也
山本哲也
キンメダイ美術館のサイエンティスト
電子工学で学位を取得後、理論物理学者になるため、ドイツ、イスラエル、中国で修行。現在は、習得した理論物理学を使って遺伝子発現制御のメカニズムを明らかにする研究をしています。研究だけでなく、趣味やいろいろ考えていることなどお話ししたいと思います。
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