実験家はスペシャリスト、理論家はジェネラリスト

tetsu

The 1st HOPEミーティングでラフリンに言われたこと

Word Pressが7.0になって、書式が変わってしまいました。

科学研究費とよばれる日本学術振興会(JSPS)が配分する資金は、日本の科学研究の主な資金元です。

JSPSは、未来のサイエンスを先導する科学者を育てるために、日本を含むアジア・太平洋地区の優秀な学生とノーベル賞科学者との会議であるHOPEミーティングを開催しています。

実は、私は1番最初の”The 1st HOPE Meeting”に参加させていただきました。

当時、私は有機エレクトロニクスの研究室にいたので、導電性高分子でノーベル賞を取ったアラン・ヒーガー(Alan Heeger)に会えることを楽しみにしていました。

ノーベル賞受賞者とのディスカッションセッションがいくつかあって、私はヒーガーとのセッションに応募したのですが抽選に当りませんでした。

代わりに、量子ホール効果の理論でノーベル賞を取ったロバート・ラフリン(Robert Laughlin)さんと走査性トンネル顕微鏡 (STM)と呼ばれる当時は新しいタイプの顕微鏡でノーベル賞を取ったハインリッヒ・ローラー(Heinrich Rohrer)さんのセッションに割り当てられました。

もう何年も前の話なので、そのセッションで彼らが何を話されていたかよく覚えてないのですが、ラフリンさんの「理論家の仕事はアイデアを売ることだ」という一言は鮮明に覚えています。

ちなみに、湯川秀樹も、理論家の仕事は、読んで、考えて、書くことといっています。

理論家の仕事は、計算をすることではなく、アイデアを出すことなのです。

・・・

いや、実験家もアイデアを出すし、むしろ、実験をしない理論家よりもより現実的なアイデアを出すことができるのでは?、というツッコミが来そうです。

いいところ突きますね;

20世紀はじめくらいに理論と実験が分かれた

物理では、実験で根拠づけられた理論を作り、一般法則としてまとめることが目的なので、理論家はともかく、理論を作ることは必須です。

昔の物理学者は、実験と理論の両方を行っていました。

19世紀末から20世紀初めになると、物理の分野も大きくなり、1人の物理学者が理論と実験の両方を行うのが困難になってきたので、理論家と実験家に分かれてきました。

これまでの理論を拡張することで新しいことを発見することができるくらい理論の方も大きくなってきたということもあると思います。

つまり、単純に研究をするために必要なことが単純に増えてしまったということですね。

サフラン先生に教えてもらったこと

以前の記事で、私は実験のラボ出身で、自己流で理論を作ることから始めたということをお話ししました。

イスラエルでポスドクをしていた時、その時のボスのサフラン先生は、私は実験のラボ出身なので理論と実験の違いについて語ってくれました。

実験家は自分の行った実験に意識が向きますが、理論家は広く見ることができるので、一般論を作るという点においては理論家の方が有利だとのことです。

また、例えば、私の場合、アイデアを出すのに、アナロジーを使うことが多いです。

虎の威を借るキツネをすると、自発的対称性の破れでノーベル賞を受賞した理論物理学者である南部陽一郎もアナロジーが理論物理学の強力なアプローチであることを説いています。

アナロジーを使うためには、広く物理法則を知っていて、なおかつ、物事の本質をつかむ能力が必要です。

実験家はスペシャリスト、理論家はジェネラリストという形が理想なのかもしれません

化学、生物学、工学分野での理論の役割

化学、生物学、工学分野など、物理以外の分野でも理論を作ることがあります。

生物学、ことに分子生物学は、生物固有の分子システムだけでなく、共通のものも見つけることも目的の1つですので、一般法則を見つける物理と通ずるものがあります。

しかし、その他の分野は、一般法則を作ることが目的ではないので、理論には物理とは異なる目的があると思われます。

工学分野では、単純に予測ツールとして使われることが多いように思われます。

化学では、福井謙一が量子力学を使って化学反応を理解するためのフロンティア軌道理論を作ってからというもの、原子の運動量を考慮に入れた理論を作る、複雑な分子の計算ができるようにパッケージ化するなどの研究がされています。

工学と同様、反応の予測ツールとして使うこともできます。

化学と工学では、基礎となる物理がすでにあることが多いです。

分かっている物理法則を適用して分かることは、分かっていることです。

化学や工学を普通に研究していて、分かっていないことが偶然見つかるほど現在のサイエンスは貧弱ではありません。

優秀な化学者やエンジニアは、分かっていることと分かっていないことの線引きをし、現在の物理で分かることの外側に行くために理論家と共同研究している節があります。

一方、生物学は、分かっていることのほうが少ないですし、物理的基礎もほとんどない分野です。

物理学は他の分野と融合して一般法則を発見していく分野ですが、生物学で研究されている対象は物理学のフロンティアです。

生物学では、単純に、実験生物学者と理論物理学者が助け合って生命現象を理解していくのがいいのかなと思います。

年をとるとアイデアの比重が大きくなった

実は当時から、ラフリンに言われるまでもなく、アイデアを思いつくのが面白いので理論を作っていました。

計算とアイデアの比重は、同じくらいかやや計算の比重が多かったかなという感じです。

しかし、年を取るにつれて、単純に老化のために長い計算をするのが大変になってきました。

また、長い計算はフォローするのが難しく、理解されません。

そのため、アイデアの比重をだんだん大きくしていった結果、今の形になりました。

歳をとるに取れて、他のことに時間を取られることが多くなってきたので、このスタイルにしたのは良かったです。

考えるだけだったらいつでもできますし、考えることは好きですので。

ABOUT ME
山本哲也
山本哲也
キンメダイ美術館のサイエンティスト
電子工学で学位を取得後、理論物理学者になるため、ドイツ、イスラエル、中国で修行。現在は、習得した理論物理学を使って遺伝子発現制御のメカニズムを明らかにする研究をしています。研究だけでなく、趣味やいろいろ考えていることなどお話ししたいと思います。
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