プライドは薬か毒か

tetsu

プライドの高いポスドクの話

みなさんは、プライドは高い方でしょうか?低い方でしょうか?

私は、自覚症状としては低い方だと思います。

なんでこんな話をしようと思ったかというと、以前私の研究所にいた中国からのポスドクの方が非常にプライドの高い方だったからです。

そのポスドクのかたは、高分子分子動力学シミュレーションをする方だったのですが、論文を書くのに苦戦してました。

論文を書いてはボスにダメ出しを食らい、そのうちに最初から書き直すことになり・・・ということを繰り返していて、かなり精神的に病んでいました。

私の時にもそんな感じではあったのですが、私の場合はこのプロジェクトでスケーリング理論を作れるようになりましたし、スケーリング理論の論文の書き方を学ぶことができたので、プラスになったこともたくさんあったので、精神が消耗するということもありませんでした[1]。

どちらかというと、ボスの技術を研究所にトランスファーしてほしいと言われていたので、3年もかけて1つのプロジェクトを最後までやり遂げたのに、その後の面談で「研究所の他のPIとの共著ではないので残念です」と言われて、評価が低く、しかも給料に反映されたことが嫌でした。

その面談後、何か月も怒りに震えて夜眠れなかったのを覚えています。

怒りというのはボスに対してのものではなく、むしろ、ボスにはスケーリング理論を教えてくれて感謝しています。

それはともかく、ポスドクの話に戻しましょう。

つい年を取ると愚痴っぽくなってしまいますね。。。

話を聞いて少しでも心が軽くなるのだったらと思って話をしたら、「努力は報われるべきだ。。。」ということをおっしゃっていました。

その後、「俺は小学校のころからナンバーワンで、・・・」みたいな話になって、この人すごいプライドが高いんだなと思いました。

その場はなだめましたが、本心を言うと、努力で何とかなるのは大学受験までで、研究の現場で努力が報われると信じることは、その年でサンタクロースを信じるのと同じだと思っていました。

私だったら、ボスのスケーリング理論を習得して、自分のサイエンスに活かすことを考えるなとも思いました。

海外でプライドを粉々に打ち砕かれた

私は自覚症状としてはプライドは低い方と言いましたが、私が博士課程を卒業したころは、たぶんプライドはかなり高かったと思います。

学部でも学生優秀賞をもらい、修士では専攻の代表になり、博士の時には半年早期卒業と博士論文賞をもらったのですから、それはね。

また、ドイツのマックスプランク研究所で、そこで付けた力が通用しちゃったのも拍車をかけちゃいましたね。

そして、イスラエルのヴァイツマン研究所で、(おそらく意図的に)プライドを粉々に打ち砕かれました。

非常に嫌な思いをしたのは覚えているのですが、具体的にどのようなことをされたかは意外とあまり覚えてません。

ボスに評価されなかったとか、嫌味をいわれたとか、そんなことだったのだと思います。

今ではヴァイツマン研究所に行ってとてもよかったと思っていますが、当時は来なければよかったと思っていたともいます。

サフラン先生は、私が彼の研究室に加わった時、父親のように思ってくれて構わないと言ってくれました。

もしかしたら、ユダヤ流の教育だったのかもしれません。

そうだとしたら、とてもよかったと思います。

プライドは挑戦することへの障害

プライドは過去の成功体験が原因になっていることが多いと思います。

つまり、プライドとは、過去の自分の肯定です。

もっと直接的な表現をすると、自分の過去の栄光にすがることなのだと思います。

過去の成功体験があると、特に新しいことへの挑戦する必要もなく感じることがあります。

それと同じことをするとまた成功するだろうという予測もあるかと思いますが、自分が得意だった時にできていたクオリティーに届かないことを恐れるのもあると思います。

しかし、新しいサイエンスなんて、発見されたときには汚く、だんだん整理されてくるものです。

見栄えや完成度ばかり気にしていたら、発見できるものもできなくなってしまいます。

私の場合は、プライドを壊されたからこそ、自分が学生の時に極めたことをあっさり捨てて、新しいことに挑戦できたのだと思います。

今はプライドなどという挑戦することへの障害を壊されて、本当によかったと思っています。

参考文献

  1. 1. T. Yamamoto, J. A. Campbell, S. Panyukov, & M. Rubinstein, “Scaling Theory of Swelling and Deswelling of Polymer Networks”, Macromolecules, 55: 3588-3601 (2022). doi: https://doi.org/10.1021/acs.macromol.1c02553
ABOUT ME
山本哲也
山本哲也
キンメダイ美術館のサイエンティスト
電子工学で学位を取得後、理論物理学者になるため、ドイツ、イスラエル、中国で修行。現在は、習得した理論物理学を使って遺伝子発現制御のメカニズムを明らかにする研究をしています。研究だけでなく、趣味やいろいろ考えていることなどお話ししたいと思います。
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